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家族葬から一日葬、直葬まで「別れの作法 イロハのイ」

公開期間:無期限
親子の関係性を時系列で考えていくと、自ずと葬儀の問題にたどり着く。 行き当たりばったりで進めると、人間関係に傷を残すことになりかねないが、かといって事前にきっちり準備することも心情的に厳しいものがある。
一族郎党集まって、盛大に親を見送る…そんな葬儀は昔に比べると減ってきた感がある。

昨年、葬儀ポータルサイトの大手「いい葬儀」を運営する鎌倉新書が2年以内に葬儀を施行した30歳以上の男女に実施した調査によると、葬儀全体の5割今日を占めているのは「一般葬」だ。

これはいわゆる従来型の葬儀で、喪主や喪家が会葬者を招いて通夜式や葬儀・告別式を行う。

約4割で続くのは「家族葬」。
名称通り、親族だけが集まることもあれば、友人知人が招かれることもある。
こちらも通夜式や葬儀・告別式を行うが、一般葬と比べて小規模なのが特徴だ。

ただし、いわゆる業界用語で人数や会場規模などの明確な定義はない。
1995年頃に東京都心で使われ始め、じわじわと全国に広がっていったと思われている。

残り1割は、「一日葬」と「直葬」が分け合う。
一日葬は通夜式を省いて告別式だけを行う簡略タイプの葬儀を指す。
葬儀社によっては「1日家族葬」と表現するところもある。
コストが抑えられるのと、関係者の都合を付けやすいといったメリットがあり、ここ数年、都心を中心に広がってきた。

一方の直葬は、通夜式も葬儀・告別式も行わず、直接火葬するスタイル。
最も短時間、低コストで住むということを追い風に、2000年前後からやはり都心部を中心に増加中だ。

その他一般葬の中でも、僧侶を呼ばずにオーダーメイドする「自由葬」のスタイルを選んだり、葬儀の後で形式ばらない「お別れの会」を開いたりする動きも広がっている。


【平均額は120万円弱 80万円未満は35%】
総じてみれば、葬儀は少人数化と簡略化の流れにあることは間違いない。
バブル期は個人と直接繋がりのない喪主の知り合いが葬儀に駆けつけたりして、会葬者が300人を優に超すこともザラだったが、最近は一般葬でも100人に満たないことが多い。
バス用の駐車場区画がマイクロバス用に変更された火葬場はいくつもある。

それに伴い、葬儀にかける費用も減ってきている。
鎌倉新書が17年に実施した全国調査では、僧侶へのお布施や飲食代、返礼品代を除く総計の平均額は4年前から13万円以上低い117万円くらいだったそうだ(飲食費返礼品代を足すと約178万円となる)。

ただしこの数字だけで判断するのは危険だ。
一部の豪勢な葬儀が平均値を押し上げているところがあり、80万円未満の葬儀も全体の35%を占めている。
必ずしも平均値が普通の葬儀を実現しているとはいえない。

全体の傾向は確実に変わってきているが、”葬儀の最適解”が収れんされているわけではなく、葬儀の自由度が増して選択肢が広がったと見るのが正解だと思われる。
個人らしい葬儀を求めたり、安く小さくを求めたり。

さらには、かねて続く地域ごとの習わしや家と寺との付き合い方もある。
それらの要素と向き合って、”自分たちの葬儀の最適解”を探す必要があるだろう。
そう考えると、現代は親子で葬儀のことを話し合う重要性が増した時代だといえる。


【真正面からの話し合いはやはり難しい】
とはいえ、葬儀の話題はなかなか簡単に切り出せるものではない。
東京都世田谷区とか川崎市を中心に「お葬式のひなた」うを運営するひまわりコーポレーションの増井康高代表は、20年以上にわたり2000件超の施行キャリアを持ち、葬儀の事前相談にも数多く対応してきた。
だが、現実は故人と家族が生前に話し合った上で相談に乗るケースは今でも少ないという。

「配偶者の方やお子さんが本人に告げずに相談に来られるケースが多いです。ご本人からご相談いただくこともありますが、こちらもご家族とはお話されていないケースが大半ですね」(増井代表)

本人も元気なうちは、親も子も互いに切り出すきっかけを見つけるのが難しく、体調が悪くなって死期を感じる状態になればなおさらだ。
やはり、多くの家族に通用する”特効薬”はなさそうだ。

ただ、葬儀そのものの話し合いはしなくても、断片的に本人の意向を家族が受け取っていて、それをかくにして事前準備が進められることは多いという。

「元気な頃にテレビで葬儀のシーンが流れた時、本人がふと『ああいうの、いいな』と言ったのを覚えていたとか、親族の葬儀に行った時、『あそこの料理はうまかった』と評価していたとか。
そういうことを覚えている方は結構多いです。

だから、葬儀に関することをまとめて話そうとするのではなくて、関係しそうな情報をバラバラに、聞ける時に聞いて置くという姿勢がいいかもしれませんね。
『あの権利書ってどこにあるの?』『お寺の行事、今度は俺が言ってみるから教えて』と言うふうに」

写真や年賀状などを整理するタイミングがあれば、葬儀で呼ぶ人を相談するキーマンをそれとなく聞いたり、遺影候補に目星をつけることもできるだろう。
そうやって親子で互いのことを一歩深く知り合っていく姿勢が、最も無難で着実な”終活”かもしれない。

ちなみに最近は、遺影候補やキーマン探しにフェイスブックなどのSNSも有効だ。
もちろん本人が使っていることが前提になるが、プロフィールページにはお気に入りの写真が使われていることが多いし、交友関係も自然と可視化される。

11年に開始された「遺影バンク」のように、遺影候補の写真を自分で登録しておける無料サービスも広がっており、インターネットを使った就活も実用性を増してきている。
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